キモカワにハマる!? 「粘菌」の神秘なる世界

2016.08.30 Tue

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あなたは「粘菌」と呼ばれる生物をご存知だろうか?
菌といいながら菌類でもなく、動物でも植物でもない謎多き生物。かつて、鬼才・南方熊楠はその研究に人生を捧げ、アニメ『風の谷のナウシカ』では生の根源を悟らせる重要な存在として描かれてきた粘菌。また、単細胞生物ながら原始的知能の片鱗が見られ、最新の工学研究やバイオアートに活用されるなど、近年、多様な分野で注目される生きものなのだ。そんな粘菌ワールドに魅了され、これまで5万枚を超える粘菌写真を撮り続けている写真家・新井文彦氏。「その生態には哲学的な世界観がある」と語る、粘菌の奥深い魅力や楽しみ方について聞いてみた。

驚異の能力を持つ単細胞生物

粘菌とはどういった生物なのでしょうか?

粘菌はアメーバと菌類の中間的な生き方をしている単細胞生物で、人類が誕生するよりも遥か昔から地球上に存在していました。一粒の胞子が粘菌アメーバとなり、バクテリアを捕食しながら姿かたちを次々と変化させていくことから変形菌とも呼ばれています。ネバネバの変形体という状態の時は、土や倒木の中で生息しているため探すことは難しく、実際に森の中で姿を拝めるのは子実体という小さなキノコのような形状になった時が多いです。

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粘菌の一番の魅力とは何でしょうか?

やっぱり、まずは見た目です。胞子を放出する前の子実体はツヤツヤ、ピカピカで、未熟な美しさを持っています。そこから、たった数時間で成熟して粉っぽくなり、胞子を飛ばす状態になるんです。一方、胞子からアメーバ状の変形体でいる期間は数年かかるといわれていて、わずか数時間の瞬間でこれだけ劇的な変化をしてしまうんです。ひとつの粘菌の中には生と死、静と動、陰と陽など対極的なものが混在します。南方熊楠が世界や宇宙の理を知ろうとして、この世の様々な論理を含んだこの小さな生物に惹かれていったのがよく分かるような気がします。

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『粘菌生活のススメ』(誠文堂新光社)より

なぜ粘菌は知能を持つともいわれるのでしょうか?

ひとつの粘菌をふたつに切ると、しばらくしてまたひとつに戻りますが、別の粘菌とはお互いが刺激し合わない距離をとって交わりません。粘菌のなかには10種類以上の性別が存在するものもあり、同性同士は接合体になれず、異なる性と出会うと接合体になって大きくなります。また、イグノーベル賞を2度も受賞された北海道大学の中垣俊之教授は、粘菌(真正粘菌)が迷路を最短ルートで解く能力があるという研究成果も発表しています。中垣教授の一連の研究によると、粘菌は単細胞生物であっても、自我の芽生えがあったり、さらには記憶力や学習能力さえあるように思えます。それは「知性」の片鱗かもしれません。色々と想像を巡らすのに事欠かない魅力が粘菌にはたくさんあるんです。

中垣教授の「粘菌コンピューター」研究のように、生物学以外の分野でも粘菌は注目されているようですね。

中垣教授らの研究は粘菌そのものではなく、生命の根源を探っていく上で、粘菌を扱っているという意味合いが強くあります。中垣教授は「粘菌は物に一番近い生物であり、物質のニオイがプンプンしている」といいます。要は、物と生きものの境目を探る上で、最も単純なシステムとして単細胞生物である粘菌を研究し、数学と物理学を駆使して、複雑な生物へと応用していくという方法を採っているようです。生物学的には粘菌(真正粘菌)は世界で約900種類、日本では約450種類が命名されていますが、これまでは主に子実体の形状で分類されてきました。しかし、最近ではDNAを使った分子系統学での解析が進んできたことで、別の分類が出てくる可能性が高く、粘菌研究はまだまだ未知数です。

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都会でも粘菌に出会える!?

新井さんは粘菌写真をどういった場所で撮影していますか?

きのこや粘菌などの小さくても精一杯生きている生きものに対して、どうすればその生き様を伝えることができるのかというのが私のテーマです。大自然の森の中で粘菌が生きている一番美しい状態を撮るために、私は毎年6月から10月頃までずっと山にこもって撮影を続けています。北国の方が天然の森がしっかり残っているところが多いので、北海道の阿寒湖を拠点にしながら東北などにも足を運ぶこともあります。

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ビギナーでも粘菌を見つけることはできるのでしょうか?

まずは、粘菌という生きものがどこにでもいるという前提に立って、身近な自然を探してみてください。樹木がたくさん生い茂る森や里山がおすすめですが、公園や神社などでも見つけられる可能性は十分あります。都内では明治神宮や新宿御苑でも見つけたという話はよく聞きます。確率論でいうと倒木に生息していることが多いので、もし、そこが立ち入り禁止エリアであれば、双眼鏡などを使うといいかもしれません。マメホコリは大きいもので1cm程度ですが、ピンク色で目立つので比較的見つけやすい品種です。30cm四方を何分もかけてじっくり探すような見方を続けることで、粘菌を探し出す「粘菌目」は鍛えられます。粘菌探しに王道なし。その積み重ねの末に、自分で粘菌を見つけた時の喜びはひとしおですよ。

何億年もの時を生き続けてきた神秘的な生態とキモカワ系のビジュアルで、一度知ると人を虜にさせてしまう摩訶不思議な生きもの、それが粘菌だ。そろそろポケモン探しにも飽きてきた頃なら、粘菌ゲットに勤しんでみては?

Text:佐藤 由実 Photo:新井 文彦)


新井文彦
きのこ写真家。北海道釧路地方阿寒湖周辺や、東北地方の白神山地、八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌など、主に隠花植物をテーマに撮影を続けている。著書は『きのこの話』(ちくまブリマー新書)、『毒きのこ 世にもかわいい危険な生きもの』(幻冬舎)、『きのこのき』(文一総合出版)、『粘菌生活のススメ』(誠文堂新光社)。『ほぼ日刊イトイ新聞』で、毎週菌(金)曜日に「きのこの話」を連載中。

「浮雲倶楽部」 http://ukigumoclub.com/

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「粘菌生活のススメ」
新井 文彦 著
誠文堂新光社
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