子育て今昔シリーズ vol.01

子どもの病気と紫外線 子どもは太陽の光にあてるべき?

2016.06.27 Mon

wellib7

はるかかなたの記憶だが、筆者が幼稚園に通っていたころは、夏休み中に一番日焼けした人を表彰する日があった。どれだけ日焼けしても選ばれることはなかったので、賞をもらえる子をうらやましく見ていた記憶がある。翻って、現代社会でそのような話は絶対にありえない。いつから子どもの日焼けに対する意識は変わったのだろう。

母子手帳から削除された「日光浴のすすめ」

母子手帳から「日光浴のすすめ」が削除され、「外気浴」という表現に変わっていったのは1998年のことだった。オゾン層の破壊で紫外線が及ぼす皮膚への悪影響が取りざたされるようになったことが背景にある。

今や、紫外線対策をしないで外に出ることなんて考えられない…という女性がほとんどではなかろうか。たまにショールや手袋、サングラスにマスクと完全防備の人も見かけるが、紫外線に対する意識の高い女性が母親になれば、当然、わが子の日焼け対策も手を抜かないはずだ。

実際、赤ちゃんのデリケートな肌でも使える、とうたった日焼け止めクリームは種類も増えたし、帽子やケープ、レッグウォーマーと肌を露出させない衣料小物もたくさんある。汗っかきな乳幼児が日焼けしないよう厚着させられているのは少々、酷な気もするが、母親の気持ちは分からなくもない。

オゾンホールに近いオーストラリアなどでは皮膚がんの発症率が高まっており、国を挙げて紫外線対策を行っている。日本でも有害な紫外線はだんだん増えている、とみられ、皮膚が未熟な乳幼児のころから対策していくのは間違った方向ではないはずだ。

適切な紫外線対策は子どものときから

たとえば日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会が出している、学校や保育所・幼稚園での集団生活における紫外線対策に関する統一見解では、紫外線による健康へのさまざまな悪影響を考慮し、子どものときから適切な対策を行うように指針を定めている。

具体的には、紫外線の強さを表すUVインデックス(紫外線が人体に及ぼす影響の度合いをわかりやすく示すために、紫外線の強さを指標化したもの)を活用して、屋外活動はなるべく紫外線の弱まる時間に行うこと。紫外線の強い時間帯は帽子や日焼け止めを使い、テントやパラソル、よしずなどの利用で遊ぶ場所を工夫するなど対策を行う、などと促している。帽子はつばが7センチ以上のもの、衣服は白か淡い色で織目や網目がしっかりした綿かポリエステル・綿の混紡素材を選ぶと良い、などの記述もあった。

また集団生活における「子どもが使うのに適したサンスクリーン剤」としては、「SPF15以上でPA ++ ~ +++」を目安にするが、むやみにSPF値の高いものは使う必要がない、としている。さらに「無香料」・「無着色」の表示があるもの、プールでは「耐水性」または「ウォータープルーフ」の表示があるものなら子どもの肌に支障がない、と紹介している。

“くる病”が過度な紫外線対策で増えている?

一方、上記の統一見解では、日焼けで皮膚が真っ赤になっても色黒(色素沈着)にならない子どもは「特に紫外線対策が大切である」としているが、紫外線は必ずしも怖いものではなく、「過剰な紫外線防御はお子さんの成長の妨げになることがありますので、上手に紫外線対策を行って下さい」とも書かれている。

そもそも母子手帳で子どもに日光浴を勧めていたのは、骨の形成に欠かせないビタミンDが皮膚に紫外線を浴びると体内で合成されるからである。ビタミンDは食事からも摂取できるが、栄養状態の悪い時代では十分ではなく、骨を丈夫にできない恐れがあった。結果、体重のかかる脚の骨が極端なO脚になるなど骨格障害を引き起こす「ビタミンD欠乏性くる病(以下、くる病)」は、ごくありふれた病気だった。予防のための日光浴に加え、ビタミンDを多く含む「肝油」を飲んでいた人もいるだろう。

その後、粉ミルクにビタミンDが添加されたり、離乳食の内容も改善されたりしたことで日本では子どものくる病が激減した。それに伴い、くる病予防のための日光浴、という概念はなくなり、紫外線による悪影響の方が重視されるようになっていったと考えられる。

ところが近年、子どもたちに再び、くる病増加の兆しがある、という報道が相次いだ。まだ、まとまった患者数の調査はなく、あくまで病院からの報告レベルだが、忘れ去られていたくる病が再び子どもの病気として注目されるようになってきているのは間違いない。

母乳育児中や偏食気味の人は要注意

くる病が再び増加している原因は、極端な紫外線対策で日光を浴びない生活を行ったことによる弊害、アレルギー対策で離乳食の開始時期を遅らせたり、除去食を実施したりすることによる栄養不足にあるのではないか、と考えられている。ミルクにはビタミンDが補完されているが、母乳はビタミンDの含有量が少ない。そのため母乳育児の専門家らで作る日本ラクテーション・コンサルタント協会のHPによると、完母(母乳のみで育てている)の場合は、母親がビタミンDを多く含む食品を食べたうえで、日光浴とまでは言わなくても、屋外の日陰で30分程度過ごすなどは心がけた方が良いという。同様に母乳育児で育てられている赤ちゃんも母親と一緒に屋外へ出て、外の空気に触れた方が良いらしい。

またビタミンDの不足によって、大人でも骨軟化症や骨粗しょう症になる恐れがあることは覚えておきたい。昔と比べて食事内容は良くなっている、と言っても、ビタミンDを多く含むのは魚やキノコ類、レバーなどであり、偏食があれば慢性的なビタミンD不足に陥る可能性もある。サプリメントで補うのは過剰摂取になる恐れもあり、特別な事情がない限りは控えるべきだろう。

つまり大人も子どもも積極的な日光浴はNGだが、完全に太陽の光をシャットアウトしてしまうと、ビタミンDの生成不足で健康上の弊害が出るかもしれないことは頭に入れておいた方が良さそうだ。子どもなら適度な対策をしつつ、外遊びさせる時間も大事、ということだろう。

昔と今の認識の違いに苦慮

しかし、この「ほどほどに」という具合は個人的なとらえ方の差があり、家庭内ならお姑さんとお嫁さんの認識の違いがしばしばぶつかりあう。日光浴に対する昔の子育てとの違いについては、母子手帳も改訂されているので粘り強く説得するしかない。

一方で保育所や幼稚園、学校でも、首の後ろまで隠れる帽子を着用しているところもあれば、プールの時間に日焼け止めを塗ることを禁止しているところもあり日焼けへの対応はさまざまだ。紫外線とは関係ないが、公立小学校におけるクーラーの是非について埼玉県所沢市で住民投票が行われたことも記憶に新しく、昔と今では環境が変わってきていることについてどのように対応していくかは常に難しい判断を迫られている。

たとえば上記の統一見解では、耐水性の日焼け止めならプールの水質汚濁に影響がない、としたうえで、必要なときには水泳の授業で使用を許可するよう求めている。このような指針の内容が保護者や教育現場にも広がり、適切な紫外線対策が行われていくことを期待したい。

(Text:吉岡 名保恵)

日本臨床皮膚科医会
http://www.jocd.org/

日本ラクテーション・コンサルタント協会「ビタミンDと母乳育児」
http://jalc-net.jp/FAQ/ans14.html