細菌 VS 抗生物質の皮肉な戦い

2016.06.06 Mon

wellib7

風邪で病院にかかると、「とりあえずお薬を」と医者から抗生物質を処方される。また、以前飲み残した抗生物質を、風邪気味だから飲んでおこうという人も多いのでは。こうした医者も患者も公然と行ってきた抗生物質信奉がいま、耐性菌という世界的な問題を引き起こしていることをご存知だろうか。

抗生物質には使い続けることで、その薬が効かない薬剤耐性菌を生み出す性質がある。この耐性菌が増殖することで、別の感染症を発症した時に治療が困難になるだけでなく、人に伝播してさらに広がる恐れがあるのだ。よく知られているのがMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)で、この菌による院内感染や集団感染は国内外で発生しており、高齢者や病人などこれまで多くの人が命を落としている。世界では耐性菌が原因となった死者は70万人いると推計され、このまま対策を講じなければ2050年にはその数が1000万人になると想定されている。また、今年5月には米疾病管理予防センターが、現存するあらゆる抗生物質すべてに耐性を示す細菌への国内初の感染症例を報告した。この「スーパー耐性菌」が広がれば、深刻な危険をもたらしかねないと重大な懸念を示したのだ。

世界中の医療現場を震撼させているこの耐性菌問題。先立っての伊勢志摩サミットでも議題に挙がった重要課題だが、日本もようやく取り組みを始めた。政府は2020年までに抗生物質の使用量を33%減らす目標を掲げた対策を決定し、厚生労働省は「医師は安易に抗生物質を処方しないこと」を呼びかけ、患者にも適正な使用を促す方針だ。

そもそも、抗生物質とは抗生剤、抗菌薬とも呼ばれるように、細菌を殺したり弱らせるための薬で、細菌感染症の治療に用いられている。しかし、私たちが日常的に処方されるのは、細菌感染症の予防を目的とした場合が非常に多い。例えば、風邪の場合、原因のほとんどはウイルス感染によるもので、これに抗生物質はまったく効かない。だが、風邪をこじらせて肺炎(細菌感染症)になるかもしれない、原因が細菌かもしれないというわずかな可能性を防ぐために、とりあえず抗生物質は処方されているのだ。しかも、抗生物質の副作用を抑えるために、胃薬、整腸剤までついてくるため、たかが風邪のつもりが大量の土産のごとく薬を持たされる始末はやはり時代錯誤としかいえない。

どんな薬にも副作用は付き物だ。しかし、医者が良かれと思ってポリファーマシー(多薬剤処方)に依存していくことで、私たち患者は薬漬けとなり、その薬の数だけ副作用のリスクを背負わされているのだ。こうした医療の矛盾にいち早く警鐘を鳴らしたのは、人間ではなく医療が生んだ耐性菌だったという皮肉な現実を、私たちは知っておきたい。

text:佐藤 由実)