編集部・チーム潔癖症と菌専門家の「仁義なき戦い」 vol.2

菌は悪なのか正義なのか![後半戦]

2016.06.02 Thu

wellib7

自称「ノーマル」と叫ぶ潔癖症の編集部員、菌をこよなく愛する菌研究の専門家。菌は人間にとって悪なのか、正義なのか。座談会形式で行われたバトルの第2弾、はたして、部員たちは菌に愛着を持てるのか? 白熱するバトルの後半戦でも両者の熱いトークが飛び交う。

潔癖部員 A:菌が怖くて温泉に入れない。不特定多数が使うバスマットがとにかく嫌い
潔癖部員 B:電車の中のつり革、手すりに触るのがいや。外出先でのトイレの使用は便座の菌が気になるためほぼ我慢。
潔癖部員 C:唾液周りが特に気になる。鍋パや焼き肉はいつも手際よく取り分けてくれる。「気が効く人」かと思いきや、人が自家箸でつつくのが許せず、「とりわけ奉行」になっている。
愛菌家 李 憲俊先生:衛生微生物研究センター所長。菌をこよなく愛する研究者。


抗生物質だって菌からできた
人間を救う菌

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C:前半戦で便座に付いた菌も、バスマットについた菌も死んでしまうから大丈夫と言われていましたが、菌ってどのくらいで死ぬんですか

李:みなさんさっきから菌が悪のように言われていますが、菌があることが悪いわけではないですよ。ここを勘違いしてほしくないです。調和のとれた自然界のためには菌は必要不可欠な存在です。地球のような星は宇宙の中では珍しいのです。土の中にはさまざまな菌がいて、人間によい影響をもたらす菌だっているわけです。抗生物質の素となる菌もあります。これまでも人間と菌は共存してきたのです。

赤ちゃんはお腹の中で羊水に包まれて無菌状態で生きています。産道を通る時に母親の菌を付けて出てくる。無菌状態からミクロの菌がある世界へと飛び出すので、その刺激にびっくりして泣くのだという説もあるほどです。

以前、無菌マウスの実験がありましたが、菌を全く持たないマウスは、無菌室を出た途端に死んでしまいました。自然界には菌があって調和が取れているのだとしたら、人間が生きるためには菌と共存することが必要なんです。菌は極悪ではありませんよ。菌が無いことが素晴らしいことでは決してないのです。

口の中は菌でいっぱい
つり革、手すりは大丈夫か?

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C:人間が一番菌を持っているという先生の発言がありましたが、口の中って菌だらけだと聞いたことがあります。だからやっぱり唾液周りは気にした方がいいですよね。

李:Cさんは鍋の中に他人の箸が入るのがゆるせない人でしたね。口の中に菌が多いのは確かです。でもあなた、鍋の中にを入れれば人間に病気を引き起こすような菌は死滅していますよ。菌によっては40℃から死ぬものもいます。まれに、納豆菌のように100℃でも死なない菌がいますけど、人間に病気をおこすような菌は、湧いている鍋の中ならば大抵は死にます。人が箸で鍋をつついたからと言ってそれほど汚くはないです。

B:先生、つり革、手すりは?

李:もちろん菌はいます。だけど考えてみてください。一億円もっている人が数円落とすのを気にしますか?菌が付くってそれくらいのことですよ。自分だって菌をいっぱい持っている。そして、他人と同じように落としていきます。そんなに菌を気にしてたら生きにくいでしょぉ。

C:でも、菌を気にしても日常には困ってはいないですよね(3人の頷き)

B:不便は感じないですね。最近はエスカレーターの手すりが「抗菌」っていうのも見ますよね。あれだと安心なんだろうか?

李:あれは菌が付かないというものではなくて、菌がついても30分から1時間で死にますというものです。安心を保証するものではありませんね。

A:そうなんですね!

潔癖症は遺伝する
歯の強さも遺伝する

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李:それよりも、潔癖すぎる人を心配します。アメリカの実業家、ハワード・ヒューズなんて人は酷い潔癖症でしたから、死ぬときは孤独なものでしたよ。地球上で無菌に近い場所を求めるならば砂漠くらいです。砂漠で一人淋しく死ぬ人生、考えられますか?彼が潔癖症になったのには、母親の影響が強かったとも言われています。潔癖は潔癖を生むんですよ。

A:子どもが自分のようになってもかわいそうかもって、考えちゃうことはあります

B:確かにうちも親がきれい好きでした。自分が喘息持ちだったこともあって、いつもこまめに掃除してました。自分の潔癖に気づいたのは、一年生の頃だったかな、自分が食べていたアイスクリームをおじいちゃんに食べられて、そのアイスを汚いと思ったことをよく覚えています。

A:虫歯がうつるとか言いますよね

李:虫歯と菌の関係が密接なのは事実です。虫歯になりやすい人、なりにくい人の違いにDNAが関わっているという研究結果もあります。遺伝的に虫歯菌に強い菌を持っている人がいるんです。

C:遺伝とは驚きですね。

李:とにかく皆さんは菌を怖がり過ぎです。病気になることを警戒するのであれば、菌を避け過ぎるのもよくないです。手を洗いすぎても皮膚病になります。無菌マウスの例があるように、菌が減り過ぎでも病気になります。何度も言いますが、大事なのは共生です。私は仕事で菌を殺す実験をよくしますが、顕微鏡越しに見る菌たちが、生きようと必死に頑張る姿を見ていると涙が出てくることがある。ミクロの世界でこんなにも一生懸命に生を繋ぎとめようと力を出している。人間も頑張らなければと思うんですよ。世の中、除菌、殺菌と菌を悪者にしたてた商品が多いですが、もっと菌をいとおしんでほしいです。地球と人間には菌は必要なんですから。

前半戦はこちら

(text:宮本さおり)