菌トリビア 感染管理者が教える本当の『菌』の話

2016.06.03 Fri

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梅雨、いよいよ到来。目には見えない菌たちが増殖し、食物や衣類などにもカビが生えたり、腐ったりしやすいと言われるこの季節。その正体を知り、どうせなら心地良く過ごしてみたい。そんな想いから、神鋼記念病院の院内感染管理者で感染管理認定看護師の谷口とおる氏にお話しを伺ってきた。

細菌はゾウ、真菌はシロナガスクジラ、ウイルスはネズミ!?

菌とは一体何なのですか?

ひと言でいうと、微生物のことです。細菌、真菌、ウイルス、藻類、原虫など目に見えない微小な生物の総称で、これらのうち、一般的にバクテリアとして知られる細菌やカビである真菌、ウイルス、原虫には、人間を含む動物に病気を引き起こす種類もあるため、病原微生物と呼称することがあります。

細菌、真菌、ウイルスの違いについて教えてください。

一番大きく違うのは、生き方の違いです。細菌や真菌は栄養などの条件さえ整っていれば、自分で生きていくことができる生き物であり、増殖も自ら行います。星の数ほど種類があるのであくまで大別になりますが、細菌類が1個から2個、2個が4個になるという細胞分裂であるのに対し、真菌は発芽して花を咲かせて増えていく、そんなイメージの増え方をします。カビ取り剤のコマーシャルなどで、ねこそぎ除去するといった表現がされるのは真菌が雑草などと同じで根っこが残ったままだと、また生えてくるからなんですね。

他に顕著な違いはありますか?

次に違うのは大きさです。ごく普通に比較すると、これら3つの中で一番大きいのは真菌、次いで細菌、ウイルスとなります。患者さんに説明する時などによく使われる分かりやすい例えでいうと、人間を地球とした場合、一般的な真菌はシロナガスクジラ、細菌類はゾウ、ウイルスはネズミくらいのサイズになります。ノロウイルスによる感染は、地球規模で見ればほんの小さな集団。しかし、その数はネズミが約100匹程度に相当します。それらが侵入することで、人間に下痢や嘔吐の症状を引き起こすくらいに強力なのです。いかにやっかいな存在かということが想像できるのではないかと思います。

人間という生き物が成り立っているのは、細菌のおかげ

細菌は私たち人間の体にどのような影響を及ぼすのですか?

ご存知の方も多くいらっしゃると思いますが、そもそも人間の体は細菌だらけです。皮膚にも山ほどいますし、腸など体の中の至るところに存在しています。そして栄養さえあれば増え続けることのできる性質を持つ細菌は、水気の多い場所など外界にもごまんといます。

身近な例で言うと、台所のスポンジ。たしかに水回りに菌は多くいますが、だからといってそのスポンジで洗ったコップで飲み物を飲んだら、何か体に影響があるか、病気になるかといえばイコールではありません。あるいは、電車の吊り革を触ったからといって感染するかといえば、免疫不全の患者さんなどの例外をのぞいては、通常はないことでしょう。

血液のように無菌の部分に何かしらの菌が入って、バランスが崩れた時には発熱したり、菌血症などの病気が起きることはありますが、普通に元気な人なら「免疫力=やっつける力」がおのずと備わっています。人間の体はうまくできているもので、細菌が入ったところでそれがわるさをしないかぎり、ちゃんと調和が取れるようになっているのです。

それに体内でも、自然界でも「自分たちばかりが増えたら生きていけないな、あいつらがいないと生きられないな」と細菌たちはうまくバランスを取って共存しているんですね、ちょうど人間と動物が地球上で共存しているのと同じように。細菌と共に共存して、人間という生き物が成り立っている。いわばお友だちと言っても過言ではありません。

細菌の働きやバランスによって、人間は守られ、助けられているということですか?

はい、そうです。食品に関わる細菌類も非常に多くありますよね。腸内細菌の話で、善玉菌、悪玉菌という言葉をよく耳にすると思いますが、実は善玉菌、悪玉菌というひとつの菌が存在しているのではありません。善玉菌を増やして、悪玉菌をなくせばいいということでもなく、「腸内にはほどほどに良いことをしてくれる菌と、これが増えるとあまり良くない菌がそれぞれ何種類かいて、それらのバランスがうまく取れている状態を保つことがベスト」というのが正しい解釈なんですね。

では、ヨーグルトや乳酸菌飲料を取っても、健康にはあまり影響がないということですか?

健康であれば、ある程度は体内の細菌たちがバランスを保つために働いてくれますが、やはり食べ物は影響しますし、自主的に努力することには大いに意味があります。ただ、ぜひ知っておいていただきたいのは、乳酸菌飲料や発酵食品の多くは、生きたままではなく、いわば死菌の状態で腸に届いていることが多いということです。

仮に乳酸菌飲料や発酵食品を食べたとしても、生きた状態で腸に到達する菌はほとんどいないでしょう。それなのになぜ体に良いかというと、腸内にいる菌たちが死菌の影響で活性化されたりするからです。死んだ菌であろうと、体内で生きている菌であろうとどちらでも意味があるんです。

ちなみに、枯草菌(こそうきん)から作られる納豆などの発酵食品が体内に入ると、腸内細菌のバランスがよくなることも、すでに分かっていることですね。

真菌と食の美味しい関係

真菌にまつわる病気や人間に対する影響について教えてください。

皮膚の清潔を適度に保てなければ、真菌による代表的な病気である水虫(白癬症)などになることもありますが、皮膚を清潔に保とうと過剰になることで、皮膚の常在菌(普通に存在している菌)のバランスが崩れ、真菌が感染することもあります。

これは病気というよりも、潔癖症の方などが過剰に手洗いを行った場合に起こりうるひとつの可能性なのですが、前提として、皮膚の常在菌(普通に存在している菌)をすべて除去することは、手を燃やしてしまうくらいの極端なことをしないかぎり無理なことです。

現に、手指を石けんと流水で30秒以上をかけて洗った後に、アルコール製剤(消毒剤)を使用し手指消毒を行ったとします。その手を全く他の何にも触れずにいたとしても、23時間も経過すると、最初に手を洗って消毒する前の手の菌量と変わらなくなります。

仮に、皮膚の常在菌を可能なかぎり除去できたとしても、今度は常在菌のおかげで防げていた真菌が皮膚に定着してしまい、新たな症状を引き起こすなどの問題が生じかねません。清潔にすることは良いことですが、度を越すのは考えものです。心理的な理由などもあると思われますが、適度をぜひ心がけていただきたいと切に願います。

真菌も、パンやビールなどの発酵食品・飲料に使われていますよね?

真菌にもさまざまな種類がありますが、通常、菌糸を形成して成長するものは糸状菌と呼ばれ、分かりやすい例で言うと風呂場の黒カビなどがそれにあたります。一方、単細胞のまま成長を続けるものは酵母菌で、イメージとしては丸くてほわほわした形状をしています。一般的にパンやビールのほか、味噌、しょう油、みりん、日本酒、焼酎など、日本的な食品の多くには、これらが何らかの形で関与しています。

出来上がったばかりのかつお節って、ご覧になられたことがありますか?木のような表面に白い粉状のものが吹いているんです。カビがついてるというと言い過ぎですが、まぎれもなくそれらが作った物質の証です。もちろんスーパーなどで販売されているものは、今も生きていて何かをしている状態ではなく、し終えた後の状態ですが。

チーズにもカビを付けるものや乳酸菌発酵によって作られるものなど、ありとあらゆるものがありますし、真菌や細菌などの微生物が活躍している料理は、非常に多いです。少し話は前後して、乳酸菌の話に戻りますが、キムチや漬物って放っておくと、どんどん酸っぱみが増していきますよね?特にキムチに強く表れますけど、酸味が濃くなるのは、まだ菌が生きていて活発に活動しているからです。日本人の味覚からいくと、本場・韓国のキムチはちょっと酸っぱすぎる感じがしますが、発酵が進んでいる証拠ですね。

ウイルス性疾患に抗生剤は効かない!?

ーウイルスというと、病気に結びつくイメージが一般的に強い気がしますが、実際はどうなのでしょうか?

細菌や真菌のように、人間と共生している微生物が存在するかたわら、ウイルスについては現時点で、インフルエンザやノロウイルスなどの病気を引き起こす原因である以外に、人間にとって何か良い活動をしているかということは確認されていません。

前述したように、ウイルス学は学問としての成り立ちが比較的新しく、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスが肝臓がんの原因だと分かったのも、子宮頸がんについてはなおさら、大部分がヒトパピローマウイルス(HPV)の感染であることが明らかになり、予防ワクチンがようやく世界100ヶ国以上で使われだしたのもここ2030年のことです。研究者それぞれに意見はあると思いますが、まだまだ成熟していない分野ですので、未だ解明されていない病気の原因となるウイルスは今後も見つかっていくのではないでしょうか。

その一方、ファージ(正式呼称はバクテリオファージ)といって、寄生しなければ生きていけないウイルスの特性を逆に生かし、人体にわるさをする細菌自体に感染させてやっつけてしまおうという、平たく言うとそのような研究が一部で行われていることも事実です。専門家によるとまだ開発中のようですが、そう遠くない未来、これに関する治療法などが普通に活用される時代が来るかもしれません。

感染管理のエキスパートとして、最後に読者にメッセージをお願いします。

お薬についてひとつ大切なことをお伝えしたいと思います。「感染=抗生剤を飲めば治る」というイメージがあると思うのですが、これは違います。ウイルス性疾患に対しては抗ウイルス薬を処方するのが理想であり、インフルエンザなら抗インフルエンザ薬というように、それぞれに合ったものを本来は飲むべきです。

HIVに対しての治療などの研究が発達した分野では薬が開発されたりしていますが、ノロウイルスにはまだ対処療法しかないように、まだまだウイルス全般に関しては、そこまで有効なものは残念ながらありません。現状、多くの場合、ウイルスを予防できるのはワクチン接種となり、抗生剤が効くことはありません。抗生剤の乱用は様々な種類の薬剤耐性菌(抗生剤が効かない細菌)の増加に伴い、今、世界的にも問題になっていて、この9月に神戸で行われるG7神戸保健大臣会合でも話し合われる予定だと聞いています。大切なご家族やご自身の体を守るためにも、ぜひ正しい知識を知っていただきたいと願います。

(Text:岸 由利子)

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谷口とおる氏
社会医療法人神鋼記念会 神鋼記念病院
感染対策室兼看護部
感染対策室副室長/感染管理認定看護師/院内感染管理者

【略歴】
2001年神鋼記念病院入職後、手術室、泌尿器科、集中治療室で勤務。それぞれの部署において特に重要な「感染症」や「感染対策」に興味を持つ。2010年愛知医科大学看護実践研究センター認定看護師教育課程(感染管理)修了後、2011年より神鋼記念病院感染対策室副室長に就任し、院内感染管理者として現在に至る。